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2019年6月14日北海道新聞夕刊「おばんでした」2018年コラム
2018年4月から、月一回、北海道新聞夕刊「おばんでした」の「終活セミナー」にコラムを掲載させていただいています。
4月 「北海道に応じた情報発信」
縁あって私が霊園に勤務して十余年経ちましたが、その間に「終活」が流行語に選ばれるなどして社会の意識が大きく変わり、死後の話はタブーではなくなりました。
終活関連の資格をうたう民間団体が幾つも設立され、多種団体や業者が終活セミナーを開催し、新たな終活ビジネスも次々と誕生しています。終活を取り巻く環境はここ十年で劇的に変化し、今や「終活」は、大学4年の学生にとっての「就活」のように、高齢者が必ずやるべき活動になりつつあります。
私もお客様からお墓以外のご相談を受けることが多くなったため、幾つかの終活資格を取得し、ネットワークも広げ、終活相談の窓口を設けて対応させていただいています。
終活をされている方々のご様子から感じるのは、六十代までの終活は流行りのカルチャーを楽しむように行われ、七十代以上の終活は強い責任感を持って、現実的に行われていることです。後者の終活は特に、注意していただきたい点が多くあると感じています。
終活がここまで注目されるのは、日本が世界で類を見ない少子高齢化社会を突き進んでいるからです。トップランナーにはお手本がありません。今、日本の高齢者の皆さんは、前人未踏のことに挑戦しているのですから、不安が付き纏い課題が残るのは当然です。
そのため、終活に取り組む高齢者には、子供に迷惑をかけたくない一心で、詳しく分からないうちに急ぐ必要がない契約をしている人や、反対に、是非しておいた方がいいことが抜けている方がいらっしゃいます。
高齢者の暮らしや葬儀、墓といった事柄は地域で大きく異なるにも関わらず、マスコミの情報が首都圏中心であることも北海道の終活を混乱させる一つの要因になっています。
北海道にふさわしい終活の情報を発信するため、命が最後に行き着くところ「霊園」から見た北海道の終活事情について、これから一年間、お伝えさせていただきます。
写真は様々なエンディングノートです。
自身の終末期や死後に家族に必要となる情報を書き残すのが基本ですが、残りの人生をより良く生きるために自身や人生の振り返りに重点を置いたものや、家族への想いに重きをおいた仕様など、多種多様です。書かれることはお勧めですが、ご自分の希望にあったノートを選ぶことが大切です。
実際に書いた方は1%しかいないというデータもあります。さて、皆さんはどんな事を書き残したいでしょうか?
1ページ目から書こうとせず、書きたい項目からうめていくのがお勧めです。
5月 「世相を映すお墓の形」
近年は「墓じまい」のご相談が急激に増えてきました。少子化とお墓に対する考え方が大きく変わってきたことが要因でしょう。
十数年前までの主流は従来通り和型のお墓。「○○家先祖代々」や「南無阿弥陀仏」といった宗派のお題目が直方体の竿石に彫られているタイプです。新規にお墓を建てる多くは、父を亡くした母と既婚の息子でした。巷では、夫の実家の墓に入りたくないという妻が多いと話題になっていた頃でもありました。
その後、自分たち夫婦だけのお墓を生前に建てるケースが増えました。娘が見学に同行し相談に乗り、お墓はコンパクトな横型、表字に制約が少なくイラストも彫刻できるタイプが人気になりました。
花が好きだった母のために桜が、釣りが好きだった父に魚が、孫から祖父母へ「ありがとう」の手書きの文字が彫刻されます。墓石もカラフルになるなど、故人らしさを表現した、女性目線重視の形へ様変わりしました。
民営墓地は、管理料がかかりますが「私たちの死後は息子が払う」と言う親御さんは殆どなく、墓じまい費用まで一括払いする方が大多数を占めるようになりました。
さらにその後、合祀(共同)墓を求める声が増えました。皆さんが口をそろえて「お墓を残して子供たちに迷惑をかけたくない」と仰います。墓じまいまで契約し、費用も一括払いすれば後継の負担はないのに、お墓があること自体が子供に迷惑だと言うのです。
気づけば夫婦別姓を望む声は以前より小さくなりましたが、墓においては、女性が婚家の墓に入らない選択は特別でなくなりました。その反面、娘を持つ親は「嫁にだしたので」、娘自身も「私は嫁いでいるから」と言い、かといって息子にも負担はかけられず、お墓は継承するものではなくなりました。
近年、埋葬の形はさらに自由になり、墓石を置かない樹木葬や、海洋散骨や宇宙葬など影も形も遺ないもの、逆にご自宅に置いておく手元供養なども加わり、選ぶのに困るほど多様なスタイルが提唱されています。
合祀墓も変化し、墓じまい後の古い遺骨の遷座が多くなりました。個別埋葬の自然葬をご提供したところ、七十代ご夫妻の生前契約を多く頂きましたが、女性お一人様や、高齢両親と未婚の子の家族契約が多い事に驚きました。
お墓の形は、世の中の移り変わりをしっかり反映しています。
夫婦の実家の両家が一緒のお墓も多くなりました。
新規に建てるお墓は、自由に彫刻できる洋型が圧倒的多数です。
写真中央のお墓
若くして亡くなったお父様に、娘さんたちから「永久に大スキです」のメッセージと、サッカーをしているイラストが刻まれています。
6月 「合同墓に合葬するということ」l
合同墓は、以前は無縁墓といわれ引き取り手がないご遺骨を納めるお墓でしたが、近年、
跡とりがいない、子供に面倒をかけたくないから利用したいという住民からの要望で道内多くの自治体が合同墓の建設に乗り出しました。合同墓は、費用が安くて管理が不要、墓じまいの心配がないというメリットがあります。
ご相談の実例をご紹介します。
「知り合いの夫妻が、自分たちの遺骨は市の合同墓に埋葬すると決めた。その後、
夫が亡くなり納骨の日。
親戚や子供達が見守る中、遺骨が妻から職員に手渡されカロートと呼ばれる地下の納骨スペースに埋葬。職員の『これで終了です。』の一言で納骨は完了した。
遺骨を地下の大きな穴に落とすように埋葬し、他の遺骨と混ざるという『合祀』というものを目の当たりにし、妻は言葉を失った。母親が後悔したことを子供達は察したが一度埋葬した遺骨は取り戻せないし、今更、墓を建てるわけにもいかない。納骨後の食事会は大変重苦しい雰囲気だった。自分達も市の合同墓を考えていたがそれを聴いて迷っている。」というご相談でした。
このご夫妻も、生前、二人でよく話し合って合祀を選択したのだと思います。しかし、何となく想像していたものと、実際にやってみたものと、違うことはままあることです。しかも、夫婦がまだ元気でいるときと、夫(妻)を亡くしてからでは、気持ちも違います。たくさんの事例を見てから決めるほうが安全かもしれません。
合同墓の利用が増えるに連れ「死んだらわからないからなんでもいい」と言う方は減少し、他人のお骨と混ざるのか、夫婦を一緒に納骨できるか、名前は遺せるか、どの様に埋葬するのか、お参りはできるのか、と具体的に確認される方が多くなってきました。
年齢も状況も亡くなり方も、想定通りとは限りません。自分の遺骨の行き先を決める時には、埋葬や供養の方法を確かめて、利用した時の様子を具体的に捉えて決める事をお勧めします。家族の状況に合わせて見直しが必要な場合もあります。
物言わぬご遺骨を納める場所でありながら、お墓にも様々なドラマがあるものです。
7月
近年、お墓についてのご相談で一番多いのは、墓じまいです。
高齢の女性が実家の墓じまいをするケースが多く、「これで安心しました」と合祀墓で合掌する姿を拝見すると、やむを得ない事情の墓じまいがあることを感じます。しかしご相談の中には墓じまいを急ぐ必要がないと思われるケースもあります。
墓じまいのご相談で必ず出てくるのが「墓があると子どもに迷惑だから」というフレーズです。墓が迷惑だけの存在なのかを考えていただきたく、霊園で繰り広げらる小さなドラマをご紹介します。
心臓発作で急死された三十才の息子さんのためにご両親がお墓を建てました。ご両親の悲しみの深さは想像に余りあるものでした。
「朝、元気で見送った息子が昼に亡くなりましたと言われて、納得できるわけがないでしょう」というお父様の言葉が、胸に突き刺さります。お墓は完成しましたが、納骨する気にはなれないとも仰いました。
後日、数人の若者がそのお墓を訪ねて来ました。東京から旭川空港に着きお墓に直行したそうです。お墓参りしてから札幌ドームでプロ野球の応援し、明朝、東京に帰るとのこと。よほど仲良くされていたお友達なのだろうと想いました。
その後もそのチームの試合がある日に、若者達の参拝がありました。お話を伺い、亡くなった青年はプロ野球チームの北海道ファンクラブのリーダー的存在だったこと、青年の訃報を知った本拠地埼玉のファンクラブの仲間がお参りに来てくれているという事情がわかりました。
急ぎご両親に連絡したところ、是非、お名前と連絡先を聞いて欲しいと言われました。
後日には、連絡を受けてすぐ霊園に来た両親と、青年達が会えたこともありました。
そんな何年かがあり、私は、故人の人生は長くはなかたけれど、仲間に慕われて楽しく充実した人生だった事を強く感じました。ご両親も同じだったのかもしれません。徐々にお元気を取り戻されていきました。
有名芸能人のお墓がファンの聖地になっていることがあります。青山墓地を見学したとき、「お名刺入れ」という小さな石箱が備えられているのを見ました。
ご自宅の仏壇や納骨堂がクローズなのに対し、お墓はオープンです。故人を慕う方がどなたでもお参りができるのが、お墓の特長です。この青年のケースが語るように、墓は、ご家族が故人の人生に深く触れる機会をもたらすことができるのです。
8月
少子化が続く中、夫と妻、双方の両親を一緒に納骨するお墓も珍しくなくなりました。
ご両親に連れられてお参りするお子さんの姿は、名字が二つ刻まれているだけで「おじいちゃん、おばあちゃん」のお墓であることに何の不思議も感じていない事を物語ります。
夫婦は紙切れ一枚の繋がりかもしれないけれど、両親であることは万代不易の事実だとお墓に教えられる事例もあります。
母親と訪れた女性のご相談です。
「父が亡くなりました。両親は早くに離婚し、父とは縁が薄かったのです。だからこそ、娘としてせめて供養をしてあげたいので、お墓を作りたいのです」
お母様が続けます。
「離婚していなければ私がすべきことです。自分の時にまた、娘に負担をかけることはできません。私も一緒に入っていいのでしょうか。」
その言葉に、娘さんはそっと涙を拭いました。少し事情を伺った後、施主様である娘さんがよければ問題ないですよとお伝えしました。
後日、かわいいお地蔵さんタイプのお墓が完成し、娘さんご家族によってお父様が納骨されました。その後、6月のある日曜日、お地蔵様が手作りのピンクのマントを着て鎮座
していらっしゃいました。娘さんからの」、父の日のプレゼントでした。
いつの日か、お母様がそのお墓に納まるとき、お二人は照れくさそうに挨拶をして、そして心優しい娘さんご家族の幸せを末永く見守っていくことでしょう。
「お墓があると子どもに迷をかける」とおっしゃる方が多いですが、すでにお墓がある方は、本当に迷惑なだけなのかという事と、もう一点「子ども(息子)」しか継承できないものかを考えてみてはいかがでしょうか。
「姓」や「直系」にこだわり、墓じまいを急ぐのでなく、お墓を利用する人や受け継ぐ人の対象を広げて、一族で使用し守っていくほうほうもあります。もちろん墓がない人は、はkという形にとらわれない供養の形も考えられます。
お盆の時期が来ました。自分の先祖を大切にすることや、自分の子孫に大切にしてもらう事の意義を考えてみるのは、自らの生き方を考える事につながるのかもしれません。
9月
先祖代々のお墓に入ることが当然だった時代は終わり、自分のお骨の納め先を自由に選ぶことが可能になりました。
新たにお墓を建立する場合、夫婦単位で墓じまいと合祀供養付の契約が多く、子や孫が承継することを前提としているのは少数です。
骨壺ごとの埋葬してご遺をがそのまま残すのではなく、ご遺骨だけ、もしくは晒の袋に入れてカロート(お墓の下にある穴)に納めて土に還す方法が大多数です。
「樹木葬」も周知されてきましたが、実際には沢山のタイプに分かれています。
樹木葬先進地のドイツでは、樹木葬の森を森林官が管理しています。自然のままの森に目立たぬよう埋葬され、その中を犬を連れた人が普通に散歩します。それは日本人には抵抗があるかもしれませんし、何より積雪が多い北海道では、郊外の森林で、鹿などの侵入を防いで木々を管理するには多大の費用が掛かるので、普及は難しいかもしれません。
北海道の樹木葬は、霊園内に植えた並木の根元や、シンボルツリーの周囲に埋葬するタイプが一般的です。最近では、花壇タイプも増えてきました。これらの場合は、そのまま自然葬されるのと、何年か後に取り出して合葬されるものとがありますので、確認が必要です。また、墓標や個別のお参りのスペースの有無、管理料の有無の違いもあります。希望にあったものか、よく確かめましょう。
数年前から散骨も話題になりました。散骨で一般的なのは海洋散骨ですが、ロケットで打ち上げる宇宙葬まであります。影も形も残らないので、家族の同意が必要でしょう。
近年、都会では、ハイテク化した納骨堂も多くなりました。多額の初期費用が掛かかっているので、経営状態がしっかりしている事が選ぶ条件として大切です。
身近にご遺骨を置いておく、手元供養も注目を集めてきました。自宅の仏壇にも置けますが、リビングに置けるようなゴルフボール型など意匠を凝らした骨壺や、自宅に置ける小さなお墓も売り出されています。寒暖差のある所でも遺骨が傷まないように、結露しない骨壺も開発されました。
さらに新しい手元供養として、パウダー状にして美しいケースに飾るタイプから、遺骨からダイヤモンドを創る方法まで考え出されています。合葬に抵抗がある場合、亡夫(妻)を手元供養し、自分が亡くなったら一緒に合同墓に納めるという手もあります。ご家族にとっても心安らぐ供養の形を選んで下さい。
10月
離壇(檀家を辞めること)のご相談が多くなりました。お墓や納骨堂があること以上に、檀家であることが子孫の負の遺産になると考えている高齢者さんが多いからです。
菩提寺の納骨堂に義父母と夫を納めているおばあちゃんから「納骨堂を返して合同墓に移したいので、檀家を辞めなければならない。お寺さんにどう話したらよいか」というご相談がありました。このように墓じまいや納骨堂の返還を考えている場合、それらと離壇する事を混同しないことが大切です。
まず、菩提寺に合祀墓があるかを確認し、あればそこで永代供養してもらうことができます。菩提寺に合祀墓がなかったり、永代供養料が高額で支払えない場合、民営や公営の合祀墓に移すことになります。その場合でも必ずしも離壇する必要はありません。
そのご相談者に、離壇することを望んでいるかどうかを確認すると「長く檀家だったし、夫の葬儀やその後のお参りをしてもらっているので、できれば自分の葬儀までは、同じお寺さんにやってもらいたい」と仰いました。それならば、納骨堂は返還しても離壇せずに、「ご自分の葬儀までよろしくお願いします」とお話してはどうかとお伝えました。
離壇する一番の理由は、子孫が高額な寄付を求められる可能性がある事ですが、基本的にお寺は壇家の寄付やお布施で運営するものですから致し方ない事です。ビジネスに長けたお坊さんは、返って下俗的かもしれません。とはいえ、葬儀と法要しかお寺との接点を持たない世代の多くは、菩提寺の運営を物心両面で支えていく気持ちを持っていないのが実情でしょう。
確かに、離壇を申し出て、高額な離壇料を求めらたとか、険悪になった等のケースもありますが、多くは円満に決着しています。後継者不在等やむを得ない理由があるにしろ、信心深い高齢者にとって離壇は精神的負担が大きいものですから、円満な話し合いが望まれます。
墓じまいに纏わる墓石撤去工事についても注意すべきことがあります。
多くの人が複数の業者から見積もりを取ります。しかし適正価格や作業内容を知らなければ、正しい選定はできません。法外な料金は論外ですが、安ければよいものでもありません。墓石の搬入先と処分方法、基礎などの廃棄物はマニュフェストに則り正しく処理されるか、取り出した遺骨の扱いは丁寧か等を確認して信頼できる業者を選びましょう。
11月
終活のテーマは「逝く者の安心と遺される者への愛」です。特に障害がある子の親にとっては、自分亡き後も子の平穏な活を守りたいと願う心の深さは、いかばかりでしょう。
ご自分夫婦と障害があるご二男とのお墓と永代供養、火葬場でのご遺骨の受け取りまでの契約を終えたお母さんが「これでひと安心ですが、私の死後、この子がここに納まるまでのことが気がかりです」と仰いました。
財産管理と身上監護は「障害がある子の親亡き後問題」の中でも特に重要で、難しい課題です。今日では支援者である親が高齢化して、親自身が支援を必要とするケースさえ増えています。
2000年に施行された成年後見人制度には様々な問題点があり、そこを解決するために「後見制度支援信託」という制度が作られました。財産の不正流用を防ぎ、身上監護の実効性を担保できる仕組みです。親亡き後の信託の目的は「子の一生涯の幸せな生活と最善の福祉を確保する」ことです。
他に身寄りがなくても不安ですが、子に兄弟姉妹がいる場合には、違う不安があります。「他人より兄弟姉妹に託したい。でも、ただ口頭で頼むだけでは、本当に最期まで面倒みてくれるか不安。かといって、信託という法律を介入させれば信頼関係が壊れるのではないか」と悩まれたりします。しかし、人生何があるかわかりません。兄弟姉妹にも正しい知識を持ってもらい、共に障害をもつ家族の幸せを確保することが大切です。
まずは親御さんが制度を知ることが先決ですが、専門家の事務所を訪ねたり、無料相談窓口で初めての人に家庭の詳しいことを話すのには抵抗がある様です。そんな時は、身近な終活相談できる人と共に、専門家を訪ねるとよいでしょう。また、北海道手をつなぐ育成会や、北海道知的障がい児・者家族連合会などの支援団体へのご相談もいいと思います。
最近は、飼い主亡き後のペットを心配するご相談も増えています。高齢の自分(飼い主)が入院、施設入所、認知症発症など、不測事態になった時、家族同様であるペットの生活を守るためにはどうしたらよいか。
そのような心配に応えるために、北海道でも活動している団体があります。NPO法人HALAWもその一つです。信託法に基づき、飼い主が元気なうちにペットと飼養費を新しいオーナーに「託す」仕組みで、身上監護の実効性が担保できる形に整備されています。
自分亡き後の大切な家族の幸せを守る準備は、終活の神髄といえるでしょう。
12月
年の瀬を迎えました。
年末と言えば、大掃除ですが、最近、終活でも「断捨離」のセミナーが注目を集めています。「不要品が入るのを断つ、不要品を捨てる、物への執着から離れる」考えで、単なる片づけやしまい込みとは一線を画します。
断捨離の後、残すと決めた物をいかに上手に収納するかを教えてくれる整理収納アドバイザーによるセミナーも人気です。親が亡くなったあと、実家の片付けに苦労したという話をよく耳にしますが、きちんと整理されていれば、家族の負担は大きく軽減されます。 また、捨てると決めた物に対しては、メルカリなどのフリマアプリを使って欲しい人に譲る方法を教えるセミナーが注目されています。世の中の流れが速く、形見が必ずしも喜ばれるとは限らなくなりました。価値観、趣味が共通する人に譲るのも良い方法でしょう。
本当に必要なものは何かを考えることは、自分の生き方を見直す機会にもなるようで、それこそが、終活の目的の一つです。
新年の楽しみの一つに年賀状がありますが、
最近は物だけでなく、人間関係の終活にも関心が高まり、「終活年賀状」なるものが登場しました。新年の祝詞の後に「高齢のため来年からは年賀のご挨拶を失礼いたします」と書き添え、来年からの年賀状のやり取りを辞退するものです。昨年の調査では、終活年賀状を受け取ったことがある人は57%、自分も出そうかと考えている人は半数、実際に出したことがある人は6%という結果でした。年賀状を頂いたら返さなくてはならないけれど、作って宛名を書く手間も費用もかかります。沢山の年賀状を楽しみにできる高齢者ばかりではないということでしょう。
知人がお母さまのことを綴った文章です。
「母は亡くなる前、向こうでお父さんに会えるのがとても楽しみと言っていました。お父さんに『きれいに片づけてきたか?』と言われたら困るからと、持ち物はタンスの引き出し一つにまとめてありました。生真面目に障子の張替までして逝ったのには驚かされました。」
唯一最後の持ち物を「家族への愛」として人生を終えた姿は、見事としか言いようがありません。
お正月がやってきます。離れている家族が一同に集まるご家庭が多いでしょう。終活が広まり、今や、死後の話もタブーではありません。万が一の時に後悔しないように、親子
話しあう良い機会にしてはいかがでしょうか。
1月原稿
お正月には、沢山の方々が初詣をされたことでしょう。皆さんの初詣は、お寺派ですか?神社派ですか?
ある年の初詣の人出の一位は東京の明治神宮、2位は千葉の成田山新勝寺という統計があります。日本全体で見ると、家の近くの神社、市内の大きい神社にお参りするという人が合わせて8割を占めますが、お寺の除夜の鐘も大晦日に欠かせない風物詩ではないでしょうか。日本人が寺や神社を宗教的な拘りなく捉えていることが伺えます。
その名の通り神社は「神様」、お寺は「仏様」をお祀りしていますが、実は日本において神社とお寺が明確に区別されたのは、明治政府による神仏分離令によってであり、まだ百五十年しか経っていません。それまで千年以上の間、日本人は古来の神道と大陸から伝来してきた仏教を融合させた独特の宗教観を保ってきました。ご自宅に仏壇と神棚の両方が設置されているご家庭も多いでしょう。
見方を変えると、初詣では神社に参拝客があふれ、七五三やお宮参りなど、人生の節目の折にも神社を訪れる人が多い中、葬儀の9割が仏式で行われている現象に、日本人の宗教観がイベント化している事を痛感します。実際、神社には何度もお参りに行ったことがあるけれど、菩提寺には行ったことがない、もしくは祖父母の葬儀で初めてお経を聴いたという若い世代が増えてきています。
宗教がイベント化する中、地方の小さなお寺社はどう経営を維持していくかが大きな課題です。私たちの方も、お寺や神社が、イベントの時だけあればいい存在なのか、しっかり考えてみる事が大切です。終活の関心事の上位は墓や葬儀ですが、先々、宗教とどう関わって欲しいかを次の世代に伝えておく必要があります。
「実家ではお正月に雪を掘ってお墓参りしていたのに、嫁ぎ先では墓参りなんて正月早々、縁起が悪いと言われたが」というご相談がありました。死に対する考え方は宗教によって違います。「死は不浄であり、ハレの期間であるお正月に遺骨のある墓には行かない。先祖の霊は家に留まり子孫を護ってくれる」という教えの宗教もありますし、仏事も宗派や地域によって慣習が違います。
宗教に熱心な方もいますが、多くの日本人は、絶対神でなく、八百万の神との共存の宗教観を持っています。慣習の違いを認め合い、宗教で争うことがないのは、日本人の良さではないでしょうか。